オフショア山本佳奈子のメールマガジン039
『中国でとことん日本を考える』発売について、中国の演劇祭炎上トピック等
こんにちは。大家好、オフショアの山本佳奈子です。
神戸は、朝晩結構涼しく、夏が来たという感じがまだしません。どうやら5月のほうが暑かったそうな。
039号の目次
『中国でとことん日本を考える 広東省佛山・千灯湖青年演劇祭見聞録』発売
Substackに今後投稿する有料記事について
久方ぶりの出展!しんながた「Hello Market」
ひとこと・気になる(中国の演劇人と東京で劇を観る/阿那亜演劇祭2026の炎上について)
『中国でとことん日本を考える 広東省佛山・千灯湖青年演劇祭見聞録』発売
オフショアの新シリーズをはじめました。「オフショアの小さい本」と題しまして、片手に収まってしまうぐらいの小さなサイズ、文庫型です。第一弾は、私・山本佳奈子が著者です。
前号で言及していたとおり、2026年4月の千灯湖青年演劇祭(夏南表演芸術季)に四日間赴いた内容を書き綴ったものです。
「中国」「演劇」に興味がなくても、海外とくにアジアとの芸術における国際交流について何かしらの経験や見解を持っている方には存分に楽しんでいただける内容かと思います。
千灯湖青年演劇祭には、演劇作家の篠田千明(しのだ・ちはる)さんのサポートと制作仕事がきっかけで関わることになりました。篠田さんと現地で合流したときのようす、篠田さんと歩いた市場、篠田さんが現地で開催したワークショップ『戯曲・ディナー』の濃厚な3時間のことなども、書いています。
日中関係が冷えきった2026年の春に、日本人である私が「招待者」として訪れた中国。そこで見たあれやこれやを、ことごとく日本に引き付けて考えた記録です。
脱稿は、ちょうど、習近平とトランプが、北京で首脳会談を行う頃でした。
政治とアートは別で、国家と個人も別だとはいえ、そのような筋の通らないことをやってきた国のアートを、積極的に招聘しようとしてくれたりする。これをいったいどう受け止めたらいいのだろう。――本文より
私が考えるように中国語が対話の言語なのだとすれば、やはり話劇を体験してみたい。言語や対話はその国の思想そのものといえるだろうし、ならば話劇を観ることは、中国の思想に直接触れることにもなるはずだ。――本文より
書誌情報
『中国でとことん日本を考える 広東省佛山・千灯湖青年演劇祭見聞録』
著者 山本佳奈子
文庫判・並製本・160ページ・モノクロ
発行 2026年6月7日 (旧暦四月二十二日)
定価 1600円(税別)
詳細 https://offshore-mcc.net/news/1659/
販売店
『オフショア』各号をお取り扱いいただいているお店も、はじめましてのお店もあります。ぜひ近くのお店へ訪れてみてください。オンラインショップがあるお店も多いです。(※7月5日現在の情報です。在庫の有無は各店にお問い合わせください。掲載順はだいたい北から南。)
BOOKNERD(岩手県盛岡市)/裂け目(宮城県仙台市)/MARKING RECORDS(長野県松本市)/本屋lighthouse(千葉県幕張市)/東方書店(東京都千代田区)/コ本や honkbooks(東京都新宿区)/バックパックブックス(東京都世田谷区)/本屋B&B(東京都世田谷区)/twililight(東京都世田谷区)/p.s. books(東京都世田谷区)/loneliness books(東京都中野区)/ブックギャラリーポポタム(東京都杉並区)/UNITÉ(東京都三鷹市)/ニカラ(新潟県佐渡市)/ON READING(名古屋市千種区)/誠光社(京都市上京区)/余波舎 / NAGORO BOOKS(京都市上京区)/blackbird books(大阪府豊中市)/Calo Bookshop & Cafe(大阪市西区)/MoMoBooks(大阪市西区)/1003(神戸市中央区)/舫書店(神戸市垂水区)/朝日屋酒店(福岡県八女市)/本と商い ある日、(沖縄県うるま市)/市場の古本屋 ウララ(沖縄県那覇市)
オフショアオンラインショップでも販売中。https://offshore.thebase.in/
見出し一覧
あの数年間/蛙と海亀/じっとしているあなたがうらやましい/首相発言以降/交流は断たれたのか/話のはじまり/烏鎮演劇祭での後悔を/にしむら珈琲の写真に五体投地/上演はなくなったものの/香港経由、陸路で佛山へ/どの本を持っていくか/「仕事」がある/一三六八円の軽食/義工と警察官/並ぶ文明への疑問/中国の色調/微信で全てが済む/スタッフのノリ/蛙の種類/富貴到永久/どんな手を使っても稼げ/夏南ラボがある文創区/川と榕樹とウサギのカゴ/築百年以上の廟/篠田さんと会う/夏南ラボで飲むIPA/李霄雲の展覧会、ポストモダンの解釈/『戯曲・ディナー』の買い出しへ/中国での経理は経理ではない/市場を歩く篠田さん/魚屋にて/紙銭を買うまなざし/お化け屋敷と政治のノイズ/即興詩の文化/想起した「戯劇新生活」/アイスブレイクなんていらない/西紅柿炒鶏蛋は泡泡させる/キャッチボールの言語/孟京輝はインディペンデントか/デジタルでオートマチック/ピンク、粉紅色/老虎上樹、地球制衣、レコード、グラフィティ/韓国人か?/シリアスと認真/話劇を観るか、パフォーマンス劇を観るか/『一只猿的報告』と『夏南居室系列』を観る/中国の天狗/公共トイレ、チケット代/香港緑葉劇団『爸爸』をどう観るか/ハイコンテクストやめましょう/力不足に恐縮する/食品安全四字歌、あの豆漿/国内の演劇批評
*
篠田千明さんといっしょに企画・開催した報告会(西国分寺ユングラで開催)も無事終了しました。途中で私が会場を離れて片道徒歩10分の西国分寺駅まで鍋を買いに行くという即興的イベント(?)があり、私は実質半分ぐらいしか報告会に立ち会えなかったような……(笑)。
いつもイベント企画制作するときは「トラブルが起こらないように入念に」とあれやこれやを準備してしまう私。もう入念すぎるほどに。心配性で、神経質なのです。それが、篠田さんと協同で何かをやるとスパーッと打ち破られるので、「そうそう、篠田さんといっしょに何かをやると、自分では予測できないこういうことが起こるのよ!」と、感動しながら会場→西国分寺駅を歩きました。とくに最近はイベントごとをあまりやらなくなり、一人で考えたり動くことが増えていたので、本当にスパーッと世界を打ち破ってもらえた感じがしました。いつも、私の位置からは見えない風景を見せてくれる篠田さんに、感謝。
Substackに今後投稿する有料記事について
Substackという場所を結構気に入ってきました。高速・大量・劇薬が求められるSNSや既存のブログサイトにうんざりしていた私にとっては、とてもよいプラットフォームだと感じます。これが2020年ごろから日本語対応していれば、『オフショア』を紙にしなかったかもしれない……と思ったりもします。そこで、Substackにおいて、有料記事も掲載していく予定です。
読者の方は、「無料購読」と「有料購読」が選べます。
メールマガジンは引き続き無料ですので、無料購読歓迎です。これまでどおり、月一あるいは隔月ぐらいの頻度で配信します。お知らせを主な内容として配信し、「ひとこと」はよりライトなものにしていくと思います。
有料記事は、これまで無料のメールマガジンで書いていた「ひとこと」を少しふくらました内容を主体に、オフショアの事務室をすこし覗いてもらうような取材ノートや、レビュー記事から批評的視点のエッセイをお届けする予定です。
なぜ有料で…? 無料でいいんちゃう…? という声も聞こえてきそうですが(実際お金に苦手意識のある私こそが何度もこれを問いましたが)、紙の雑誌『オフショア』を5号で終わらせることなく継続して発行し、また、オフショアの刊行物の内容を、より充実させるためです。有料記事から得た資金は、取材費(旅費やリサーチ費)、印刷製本費、制作費(寄稿者への原稿料も含む)に充てます。
直近の行きたい取材先は北京。7月30日〜8月7日に北京で開催される音楽フェスティバル「你和我 You and Me」へ赴くことができるかどうか(航空券代往復9万円!)、検討中です。
有料記事は、月に1〜3本程度の公開を予定しております。Substackで設定可能な最低料金(5ドル)を月額料金として、サブスクでありながらも出たり入ったりしてもらえれば。現に、私も新聞のネット購読などは一ヶ月だけ払って読んで解約したり、また再契約したりと、かなり奔放にうろうろしています。
有料購読では、上位プランとして「紙の本が届くプラン」も用意しました。オフショアの紙の本が年間1冊届くプランです。年に1冊は新刊を出しますと確約はできないので、既刊新刊問わず、何かをお送りできる、という感じです。
有料購読で「チャットに参加できる」特典を設けているSubstackユーザーが多いようですが、オフショアはチャットなしです。ご意見やアイデア、ご相談は、速いチャットではなく遅い返信も可能な「メール」でいつでも受け付けております。
有料記事の公開はこれからぼちぼちとやっていきますので、様子見しつつ、ご検討いただけましたら幸いです。
久方ぶりの出展!「しんながたHello Market」
神戸市長田区の新長田エリアで毎年開催されている「しんながたHello Market」に出展します。出展するのは久々です。もう、いつぶりかわからないです。
なぜしばらく文学フリマや本のマーケットに出展しなかったのかと言いますと、やはり、出展する際は、机の上に所狭しとたくさんの本を並べたくなるものなのです。3種や4種じゃちょっと寂しい気がしておりました。しかし、オフショアが5号まで出て、加えて自分のZINEや最新刊『中国でとことん日本を考える』もあり、あとは海外から仕入れた音源や雑誌もいくらかある……これでやっと、華々しい机をつくることができるのではないか……! 出展するときの売上もプラスで見込めるようになってきた……!
という具合なのですが、基本的には土日もまあまあバイトをしておりますので、引き続き年一回ぐらいのペースでしか出展はできないと思われます。
しんながたHello Market詳細
2026年9月12日(土)11:00~16:00
会場:兵庫県立神戸生活創造センター(新長田合同庁舎1F)
ウェブサイト:https://kobe-sozoc.com/hellomarket/
しんながたHello Marketでは「だれでもちょこっとマーケット」の出展者も募集中とのこと。今後詳しい情報も上記ウェブサイトで発表されるはずですので、また日が近づいたらぜひチェックしてみてください。
ちなみに新長田で私がおすすめするお店は、肉の「マルヨネ」です。樋口大祐・加藤正文『光と風と夢 街角の記憶を歩く』(神戸新聞総合出版センター)のP.66〜69によると、マルヨネの創始者は神戸に住んだ奄美出身者の一世。創業当時は神戸在住の朝鮮人やベトナム人をお得意さんとしていたそうです。マルヨネには豚の様々な部位が並べてあるのですが、それも、歴史を知ると納得です。店舗は新長田エリア内に数箇所あります。
ひとこと・気になる
中国の演劇人と東京で劇を観る
前述の報告会では、千灯湖青年演劇祭の総合キュレーターである馮安妮や、彼女と共に演劇祭を支えるスタッフや作家が東京まで来てくれて、ゲストとして参加していました。安妮はこの機会に東京都内の演劇公演も観に行きたいとのことで、「唐組」の紅テント公演『鉛の兵隊』を新宿花園神社で一緒に観てきました。ちょうど、私も観てみたかったのです。前半終了後、安妮が私に訊いた質問が鋭かった。
「ところで、どうしてこれが“アングラ”なの? こんなに有名で、こんなにたくさん観客がいて、こんなに立派な舞台を堂々と建ててるじゃない。」
あまりうまく返答できなかったと感じているのですが、日本の“アングラ”を“underground”で訳してしまうからおかしくなるんだよな……、と、今も模範的解答を探りつつ考えています。
阿那亜演劇祭2026の炎上について
6月17日〜28日、中国では阿那亜演劇祭(ARANYA Theater Festival)が開催されました。中国「烏鎮演劇祭」と同レベルで最大規模の国際舞台芸術祭です。目玉となった開幕作品『文城』(原作:余華)は、初演を終えるやいなやネット上で大ブーイング、炎上。主演で林小美役を務めた周冬雨に矛先が。「セリフを覚えずにプロンプターで読んでいた」「言い間違いがあった」「こんなにいい加減な劇で800元は高すぎる」「明日以降観る予定の人はキャンセルするべきだ」など。
まず周冬雨といえば映画『サンザシの樹の下で』でデビューし、日本でも流行した『少年の君』や『ソウルメイト』で主演した映画俳優です。ファッションモデルとしても活躍している、アイドル的な存在です。
いっぽう、『文城』の演出家(兼出演)の陳明昊は、もともと舞台で活躍してきた俳優です。ここ十年ほどはテレビドラマや映画にも多数出演していますが、孟京輝の演出作品に出演していたり、孟と数多く協同してきた演劇人です。孟京輝とは誰かというと、中国で実験的な現代演劇をいちはやく創作し、シーンを切り開いてきたとされる人物。テレビや映画界で人気を惹きつけてきた人物ではなく、どちらかというと「インディペンデント」な存在です。
千灯湖青年演劇祭の総合キュレーター・馮安妮と、演劇批評家の奚牧涼(彼については私の最新作『中国でとことん日本を考える』の後半に紹介)がゲストに呼ばれたポッドキャスト番組「深焦」では、この炎上をテーマとしてたっぷり2時間ほど議論がされていました。「舞台芸術としての演劇」と「アイドル」の相性の悪さや、陳明昊の演劇哲学がまだ発展途上であること、実験的で一回性の舞台と映画との差異などが語られました。
二人の意見をふむふむと聞きつつ、また、ネット上の断片的な小さな情報を観察していて、最近日本の演劇界で話題の「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」(by蓮見翔)に、なんとなーくうーっすらと、別方向からの参考資料を投げかける話題のようだなとも感じます。
(「流行ってないのに偉そうにするのはやめましょうよ」は岸田戯曲賞を獲った蓮見翔が、集英社オンラインでの受賞後インタビューで語った言葉で、この発言をもとにSNS上で議論が盛り上がった。さらに、三鷹SCOOLではこの発言と議論の盛り上がりを受けて、「「演劇は流行ってない」。それはそう。確かにそう。前からそう。で、じゃあこれからどうするの?の会」というタイトルのイベントが開催されることに。演劇作家や演出家など実践者が集まったVol.1は6月に開催され、批評家や研究者が集まるVol.2は次週開催される。)
私は、中国では演劇が「流行ってる」と思っています。それは、この阿那亜演劇祭が毎年大々的に富豪たちのためのリゾート地・阿那亜(Aranyaという不動産会社が開発したエリア)で開催されることもひとつの証左ですし、周冬雨をオファーできる経済力があることも、演劇祭が厳しい財政状態にはないことの表れだと思います。どんどんと派手な作品と演劇祭プログラムを打ち出すことができる力があり、そこにしっかりと観客もやってくる。
ただし、「流行ってる」状態で四方八方から観客がやってきた結果、そこに「台詞を覚えず台本を読むなんて!」「言い間違えるなんて役者としてどうか」と、一面的なプロ像が持ち出され、作品が批判にさらされた。周冬雨が大好きな層は映画はたくさん観ているでしょうから、俳優が目の前で台本を読むことはリハーサルを見せられているような気分だったのかもしれない。コミュニティごとに異なる習慣や価値観の差異が、この炎上事件のひとつの要因だったのでしょう。
ちなみに私は、プロンプター朗読については(朗読劇という演出では?)と思っていますし、言い間違えは(あえて台詞通りに読むことを避け、言い淀みを取り入れたのでは?)と思っています。SNS上は怒りと落胆の炎が大きかったとはいえ、「こういう演出だったのでしょう」と、水をさすように冷静に反論しているアカウントもみられました。
とはいえ。これは上のポッドキャスト番組「深焦」でも話題に上っていたことですが、なぜ、アイドル俳優である周冬雨を起用したこの作品を、演劇祭の顔となる最も重要な開幕作品にしてしまったのか。また、これまで一度も舞台作品の仕事をしたことのない周冬雨は、本当に開幕作品の主演としてふさわしかったのか。実際の劇を観ていなくても、これらは疑問に感じる点です。
さらに私が気になっているのは、大衆性と実験性がなぜ共存できなかったのかということ。陳明昊は、自身の実験的な演出で、大衆をも巻き込まなければならなかったはずです。周冬雨のファンが「創作の核心や実験性を理解しないバカな大衆」であるとは思わないですし、実験性を凌駕する作品の魅力がただ足りなかっただけなのかもしれない。どんな分野の作品であれ「大衆にはわからない」という姿勢は、頷けるものではありません(ちなみに孟京輝こそ、演劇で実験性と流行性を同時並行させてきた人物だと思うのですよね)。
加えて、今回の炎上の書き込みの多くは「周冬雨がダメだった」という書きぶりなのですが、なぜ、その演劇作品の総責任者である演出家、つまりは陳明昊にこそ、矛先が向かなかったのか。批判の矢面に立つべきは、総責任者である陳明昊ではないでしょうか?
原作の日本語訳版『文城 夢幻の町』(余華著、飯塚容訳、中央公論新社)も読んでみました。余華らしいグロテスクで奇抜な描写も多いですが、まるで任侠もののように、登場人物それぞれの性格が明快でストレートで、読んでいて気持ちよさがあります。ただ一人だけ、ヒロインの林小美にだけ、人間の揺らぎやブレる心情を与えていたのが、なんともいえない後味を残します。それこそが人間の美しさなのだと、余華は言いたかったのではないでしょうか。陳明昊は、『文城』の林小美を演じさせるなら周冬雨しかいない、と確信があってオファーしたそうですが、姿や雰囲気の描写からそれも納得できます。と同時に、あの二十年弱の出来事を詰め込んだ長編作品を、陳明昊はどのように二時間程度の舞台作品にまとめたのか、とても気になります。ネット上の情報によると、原作の時代設定は清末民初であるにもかかわらず、陳明昊による舞台版では現代に設定したそうですから。
しかし残念ながら、この作品の再演や映像化は、実現しないのでしょう……。いつか、小劇場サイズでリクリエイションしてほしいものですし、あるいは、舞台版の戯曲がどこかで出版されますよう。
下は、阿那亜演劇祭の公式ポスター、そして今回の演劇『文城』のポスターです。参考までに、公式WeChatから引用します。
それではまた。
2026年7月7日(旧暦五月二十三日)
山本佳奈子





